風と音楽 山口 勝敏
2008年11月掲載
秋の風が心地よいこの頃です。僕の作詞・作曲のひとつに(女声合唱のために書いたものです)「風よ」という作品があります。
「風よ」 風がくる
遠いあの日の香りを運んでくる
風がすぎる いってしまう風よ
私をおいていってしまうの?
風よ 風よ
私をつれてかえっておくれ
遠いあの日に
風は空気が動くことです。フルート、トラムペット、オーボエ、尺八などの管楽器はみな風を送りこみます。口笛を吹いてみませんか?肺から出てきた空気が、外に出る瞬間に風となって上下の唇を震わせます。空気が動いただけでは音は聴こえません。
そこに何か物があり、それを震わせて初めて風は音として鳴ります。電線や海や木々、山々、唇、笛・・・何といっても僕達の声。声帯という二枚のリードが空気の流れで震えます。風はすでに僕達の内にもありました!
リードオルガンをご存知ですか?ペダルで風を送って、僕達の声帯のようなリードを鳴らします。今はほとんど電気(子)オルガンなので目にすることは少ないですが・・・。僕のコンサートではいつも弾きます。風の音です。風の音を音楽にするのです。
風が聴こえる見事な音楽のひとつ・・・ベートーベンの田園交響曲第四楽章「嵐」。嵐の到来から激しいクライマックス、そして遠雷の響きと共に嵐は去り、穏やかな風と光がさしこんでくるまで・・・。
風は心の内にも吹くでしょうか。もしかしてここはベートーベンの心の嵐かもしれない。嵐が去った後の感謝の第五楽章(彼の心の嵐が鳴り止むことは絶えてなかったでしょうが)。
僕たちがふともらすため息も風でしょうか・・・。
●山口勝敏(やまぐち かつとし)
久が原在住 音楽家