「がんこな農業人」を追いかけて 山代 恵
2008年12月掲載
私が「がんこな農業人」だなと思う人と初めて出会ったのは、十五年ほど前。脱サラをして農業経営コンサルタント事務所を開いたつれあいに付き合って、事務を引き受けて五、六年経った頃である。
私の自慢のキューリを食べてみて下さいと差し出されたキューリは、一見なんの変哲もなかったのだが、ひとかじりして、いつも食べているキューリとは別物だった。それからひとくさり、このキューリが如何に作られたかの説明を受けた。でも、私の疑問点はただ一つ、私達はどうしてこういうキューリを手に入れられないの?!
それから、がんこな農業人とその作物を追い求める私の遍歴が始まった。一九九五年には「MEG・NET」というグループを立ちあげ、現場に出かけて田圃や畑を見たり、収穫したり、生産の苦労話を聞いたりというグリーンツーリズム、生産者が消費者に直接販売するファーマーズマーケットなどの活動をした。今では北海道から鹿児島県まで、何人かの知り合いができ、その作物を自分が手に入れると共に、友人達にも紹介している。
現在、私の最大の関心事は、昨年売り出した「トマトの宝石箱」。黒・白・緑・橙・赤という五色のブティトマトを、コップにドーム型ふたをかぶせた容器に入れ、見た目にお洒落で、栄養的にもバランス良いものをと友人が企画してくれた。今年八月二日に鵜の木の東京高校で開いた「トマトフェスタ2008」でもご披露したので、目にした方もいらっしゃると思う。
このトマトは「遠野ファトリア・グループ」という埼玉からIターン(移住して農業などに従事すること)した小山さんを中心とする五人の農業人グループのものなのだがトマトの専門家は一人もいない。でも、無農薬で美味しいトマトを作ってくれる。
これなら大丈夫!売れる!と思ったのだが思わぬ難関があった。それは輸送問題である。黒いトマトのブラックチェリーは、皮が薄いせいか傷みやすいので、畑で食べて美味しいと思う一歩手前で収穫して、容器に詰めてトマトフェスタ用に送ってもらう手筈になっていた。ところが、届いた「トマトの宝石箱」はブラックチェリーが潰れたり割れたりしていた。併行して、青山のレストランにも、業務用として五色のプティトマトを納入していたが、そちらでも傷みが多いので送り方を工夫してほしいと言ってきた。
「素晴らしいトマトを作っているのに、ビニール袋に詰めてダンボール箱に入れるような送り方では受け取る方には伝わらない。トマトも桃のように取り扱わないとだめです」との言葉に、生産者は大きく抵抗をしてきた。発送にそんなに神経を使っていたら、手間が掛かりすぎるという。しかし、せっかく冬の種まきから土作り、移植、水まき、草取り、収穫と、手間暇や費用を掛けたのに、最後の梱包、発送の手抜きで無駄にするなんてもったいないと、私はパッケージの変更を強く主張した。
彼らは渋々ではあったが、工夫した。平たい箱に一粒ずつ吟味したトマトを並べ、新聞紙をかぶせ、もう一段同じように並べるというパッケージを作ってきたのだ。レストラン も大満足だった。一般のトマトの箱詰めが、何段も重ねていないのはこういうことなのか と初めて合点がいった。
トマトは一つの例だが、このように安全で美味しい作物でありながら、どこかにネックがあって私達消費者に届かない作物が幾らでもある。私はこれからもがんこな農業人とその作物を追いかけ、なるべくスムースに消費者が入手できるよう、皆様からのご意見もいただきながら仲間と共に活動していくつもりである。
●山代 恵(やましろ めぐみ)
田園調布南在住