特別寄稿 午後七時の四季 土肥 あき子
2010年11月掲載
大田区千鳥の絵本の店「ティール・グリーンinシード・ヴィレッジ」を初めて訪れたのは平成19年3月。猫の情報紙「ねこいち」での連載をまとめた『あちこち草紙』(未知谷)は、私の俳句とエッセイに、森田あずみさんの猫の絵を組み合わせたもので、その原画展に併せたイベントに招かれてのことだった。
当初は俳句に出てくる猫の話しをするつもりが、企画を進めるうちに「句会をしてみたい」という声があがった。句会という未知なるものへの興味に、俳句という難しそうな垣根を取り払い、まずは言葉の世界で遊んでいただこうというコンセプトで始めた句会が、以来季節ごとに回を重ね、次回で10回を数える。
句会が面白いのは、誰もが名前を伏せて平等に投句し、また作品を評価できるという点につきる。十七文字という短さゆえ、表現しきれない部分は多いが、それゆえに思わぬ本音が見えることもある。その場で出した題に沿って、参加したそれぞれが胸に抱いていた季節のひとコマが浮かびあがる。
仕事帰りの方もいれば、家事を早めに済ませた方や、小学生の仲間もいる。性別や世代を越えた思いが、季節の言葉をキーワードに、共感し、感動を招く。五七五という器に慣れなくても、いくつかの約束ごとと、言葉を引き出すコツさえつかめば、雲のかたちも、風の冷たさも、俳句として残してあげたくなることだろう。
俳句で使う歳時記にはさまざまな季語が収められているが、どれも日本人が昔から親しんでいた季節の背景を背負っている。たとえば「秋深し」に、なぜか胸がしんとするのは、秋たけなわの美しさのなかにいながら、ものの移ろうはかなさを日本人である誰もが、心のどこかに感じているからだろう。
句会はいつも午後七時からティールームで始まる。午後七時というのは不思議な時間である。夏にはまだ昼間の余韻を含んだ夕焼けに包まれ、冬ではもう星空を仰ぐことができる。同じ夕闇のなかでも、夏には百合が香り、秋には金木犀が香る。
次回の開催は11月20日。冬の始まりはおだやかな春のような気候になることもあり、小春日和(こはるびより)というやさしい言葉が生まれた。
小春日の玉砂利どれも孵りさう あき子
● 土肥あき子(どい あきこ 俳人)
※俳人土肥あき子さんを囲んで句会をしよう!
・次回句会につきましては下記へお問い合わせください。
・時間 午後七時〜八時半
・参加費 1000円(お茶お菓子付)
・定員20名
・申込み ティール・グリーンinシード・ヴィレッジ 電話(5482)7871 要予約