四代目お茶屋のつぶやき(後編)蒲南茶荘だけの茶葉の味わいを 鈴木和貴
2011年1月掲載
時は流れ、日本も高度経済成長期が終盤にさしかかると、物流の活性化と共に、食は多様化してきました。その中でいち早く「茶問屋業」に対して危機感をもったのが、三代目の父、鈴木秀博でした。そこで、三代目は問屋業から小売業へ、地元のお客様に愛して頂ける店作りをモットーに、普段お召し上がり頂くお茶はもちろんのこと、ご贈答用の詰合せパッケージ等を企画し現在の蒲南茶荘へと発展させたのです。今も生きている、高級感あふれるデザインの茶袋や栞などの絵は、画家山本宏一の作品。山本画伯は明治の板チョコのパッケージをデザインしたことでも有名です。
そして現在、私が四代目のお茶屋として修行をはじめて四年が経ちました。四代目を継ぐ前、私はIT系エンジニアでした。その経歴を生かし、ネットの時代に合わせて即座にホームページを開設、1日あたりの閲覧数が3000近くのブログを日々綴っています。
しかしながら、そのホームページでは、いわゆるショッピングカートのようなシステムは一切導入しておらず、蒲南茶荘はあくまで対面販売が基本です。遠方の方へはお手数でも電話かFAXまたはEメールを頂戴することで、茶葉をお譲りするスタイルを貫いています。なぜ、わざわざお客様にとっては「手間」とも思われる方法を貫いているのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。茶葉は「蒸す・揉む・火入れ」といった工程を経て製茶され、茶葉の質による違いはもちろん、その「蒸し・火入れ」によって大きく味が異なります。そして、色々な茶葉を「ブレンド」してそのお店だけの味を作り出すことができるのです。もちろん茶葉も農作物ゆえに、その年によって出来具合が大きく変わってきます。
「その年の一番いい茶葉を、お届けする」というポリシーもあれば「毎年変わらない味わいをブレンドする」という考え方もあります。蒲南茶荘はまさに後者の考え方、「長きに亘り、変わらぬ味わいをお届けする」をモットーに、毎年、茶葉を見極め何種類もの茶葉をオリジナルブレンドすることで、蒲南茶荘だけの味わいの茶葉を作り上げています。
そのブレンドの特徴は、東京という日本でもトップの消費地で、多くのお客様に好まれる「濃いめの味わい」を知り尽くしたものです。これは静岡や鹿児島といった茶処では、決して手に入れることの出来ない情報であり、まさに長年の経験と技、そして感覚から生まれたものです。だからこそ、80年にも亘りこの地で商いを続けさせて頂き、たくさんのお客様にご愛飲頂いているのだと思います。
わざわざ蒲田の老舗茶屋から買い求める価値があるのかという問いに、自信を持って、その茶葉をもってお答えできるよう、四代目として修行に励む日々です。だからこそ、いわゆるショッピングカートのようなシステムは導入せずに、対面販売を基本にお電話とEメールを頂戴するというスタイルを貫くことで、「蒲南茶荘の茶葉がどんなものであるのか」も合わせてお伝えしたいと思っております。
おわり
●鈴木和貴(すずき かずたか) 蒲田在住